アレモ コレモ ヨミタイ

読んだ本のことを書いたり書かなかったり

経済学の船出 : 創発の海へ / 安冨歩

 Twitterをみていたら阪急電車の中でベルカント唱法と思しき歌い方でめっちゃ歌ってる女性の後ろ姿を動画でアップロードしている人がいて、思わず2度見してしまったのだが、歌ってる後ろで動画を撮っている人なのだろうか、笑いながら「うるさい」っていってる声が入っていて、それに若干キモチワルさを覚えた。たぶん友だちとかの手前一応否定しとかないとというその人の気持ちがのっかってしまっているような気がしたのだと思う。いや、ええやん、面白いやん。感動せいとまでは言わんけど、否定せんでもええやん、と思ってしまったのだ。

 とかくこのご時世、己が身を守るために必死になって己が身を費やすみたいなことになっていて、自分も含めて、一体みんな、なんのために何をやっているんだかわからない状況が加速しているように思われるのだが、この己が身を守るためのアイテムのひとつとして、状況および当事者つまり自分および関係者以外を全力で否定する、という行為が存在するように思う。

 本書で論じられていることは多岐にわたっていて、価格ということについて網野善彦の無縁の原理を使って論じ、マイケル・ポラニーの暗黙知をひくことによって西欧的民俗バイアスというものを提示し、思考や経験の共有は不可能であるが、共鳴はあるということをホイヘンスの実験によって説明するなど、著者の深すぎて広すぎる知識とこれから説明せんとすることが有機的につながっていく様を目の当たりにできる。まさに考えることを続けるためのスイッチを入れてくれるような一冊であるのだが、現在は入手できないのが非常に残念である。

 無理やりまとめると、最終的には自分自身と対象とを切り離さないことが大切なのだということがあって、すなわち冒頭の動画の件についても同じことが言えるのではないかということを考えた。身を守るために切り離す段階から一歩抜け出て、これからは、そのままそこにい続けた上で自分の頭で考えることが必要なんじゃないだろうか。

 さいごに、この記事を書いている現在、東松山市長に立候補され、絶賛選挙活動中の著者を心から応援したい。